蕎麦屋

非常によろしくない表現が含まれている可能性がある

三題噺『残り物』『魔法』『ゆるふわ』

友人間で行った三題噺です。
ブログが寂しいので記録代わりに載せます。
制限時間後にちょっといじったので+αです。


制限時間:2時間+α
お題:残り物、魔法、ゆるふわ

 

 

 残り物には福があるとはよく聞くが、残り物が魔法を使えるパターンは初めてだ。
「ねぇサトちゃん、聞いてる?」
 ふよふよと宙に浮かせた手鏡から目を離さず、村上は不機嫌そうにぼやいた。

 遡ること四月初頭。残酷なクラス替え掲示によって友人と見事に隔離された私は、春の陽気が降り注ぐ中、ひとり陰気に窓の外を眺めていた。隣の席では五人ほどの男子生徒が下品な笑いをあげており、なんとも居心地が悪い。しっくりこない高さのイスやワックスのにおいも、友達と一緒なら新学期のスタートを彩るエッセンスとして楽しめたのだろうが、今は苛立つ要因にしかならなかった。
 そっと教室内の様子をうかがう。始業時間まではあと数分。どの机にも色とりどりのカバンやリュックがかけられている。にもかかわらず、私のように孤独に座り込んでいる生徒は一人も見あたらなかった。皆それぞれ、既存グループの再集結を喜んだり、早々に『なかよし協定』を結びあうのに奔走している。
 まずいな。
 自然と漏れた溜息はチャイムにかき消された。同時に若い男性教師が入ってくる。知らない先生だが、みんなの反応を見る限りアタリの教師のようだ。とは言っても、みんなのアタリが私にとってもアタリである可能性は低い。実際、白い歯を見せながらはつらつと挨拶をする姿はいかにも体育会系で、私はいっそう警戒心を強める。
「まずは出席をとるぞ。相田――」
 その時だった。
 バン、という強い衝突音。全員の視線がそちらに向く。見れば、明るい栗色の髪をふり乱した女子生徒が肩で息をして入り口に立っていた。
「あ~ん! せっかくカワイクしたのにぃ」
 緊迫する教室に響きわたった間延びした声。女子生徒は何度か前髪を撫でつけながら、教室じゅうの視線を無視してズカズカと侵入してくる。しばらくキョロキョロと周囲を見渡したあと、なんでもないように空いた席へと腰を下ろした。
「おいおい、新学期そうそう遅刻だぞ。ええと……村上!」
 威厳を取り戻そうとするかのように教師が言う。教室は遠慮がちな笑いのさざ波で小さく揺れた。村上と呼ばれた女子生徒は「すいませぇん」と緩く呟いて、せっせと前髪を整え始める。
「それじゃあ改めて出席だな」
 教師がそう告げると、生徒たちは彼女から一斉に興味を無くした。どこか緊張した面持ちで黒板を見つめ、このあと控えているであろう自己紹介の文章を必死に構築し始める。
 私も同じだ。佐藤というありふれた苗字は、私の出席番号を一桁代まで押し上げるのに十分だった。今のうちに上手い自己紹介をまとめておかねば、このクラスで一年間孤立し続ける可能性だって出てしまう。それは絶対に避けたい。
 しかし危機感たっぷりの私の思考は、視界の端に動くものを捉えたことでいとも簡単に散らされた。
 反射的に目がそれを追う。先ほどの女子生徒の足元にヘアピンが落ちていた。多分、彼女が落としたものだろう。当の本人は相変わらず前髪をいじくっており気づく様子もないが。ヘアピンにはピンク色の大きなうさぎの飾りがつけられており、踏まれでもすれば割れてしまいそうだ。
 自由な校風が売りのうちの学校とはいえ、あのヘアピンは派手すぎる。先生に見つかれば一発没収なこと間違いなしだ。なんだってあんなものを学校に持ってくるのだろうか。オシャレ女子の考えることはよく分からない。ぼんやりと飾りのウサギを見つめていると、
「……は」
 パチリ、と目が合った。と思ったのも束の間、私が瞬きをするかしないかの間に、ウサギは元通り天井へと視線を戻していた。
 今のは――?
 見間違い? それにしてはあまりにハッキリとしすぎている。目玉を動かす装置でも内蔵されているのだろうか。不自然なほど大きな飾りだから、その可能性はある。しかしそうだとしても、あんなにピッタリと目が合うことなどあるのだろうか。そもそも、たかがヘアピンの飾りにそんな機能が付いているものだろうか。ならばアレは――
「ということで、適当なペアでお互いに自己紹介してくれ」
 周りの生徒が一斉に立ち上がって、私はようやく我に返った。ヤバい、話聞いてなかった。というか、は? 今なんつった。適当にペア? 私が一番嫌いな言葉だ。やっぱりハズレの先生だったか。内心舌打ちし、ヘアピンのことなど頭の隅に押しやりながら、あわてて私も席を立つ。
 ほんの数秒出遅れただけだったが、それが致命傷だった。周囲を見渡しても既にほぼ全員ペアが組みあがっており、私の入る余地は見つからなかった。縋るように教壇へ目をやるが、楽し気に話す生徒たちを満足げに眺めるばかりで助けは期待できそうにない。
 マズい。新学期一発目からボッチはキツすぎる。
 焦って唇を噛んだ瞬間、人並の隙間にただ一人残る生徒を見つける。
 選択の余地もない。足早に近づく。正直関わりたいタイプの人間ではないがそうも言ってられない。ペアを作れという指示があったにもかかわらず未だに机で髪をいじる彼女の足元にしゃがみこみ、素早くピンを拾い上げた。
「落としたよ」
 背後から話しかけると、彼女はゆるゆると首を回した。先ほどとは打って変わって綺麗に整えられた前髪は、確かに本人の言った通り愛らしさがにじみ出ている。いかにもゆるふわという言葉がピッタリだ。前髪の影が落ちた瞳は驚いたように見開かれており、占いで使う水晶みたいにきらきら輝いている。
「ふぇ、ありがとぅ~! やさしぃ~!」
 垂れ気味の目をさらに緩めながら彼女は笑った。わざとらしく間延びした言葉尻に、私はどうにも引きつった笑いが抑えられない。ハッキリ言って、苦手だ。
「へぁ。てか、どーゆぅ状況? 話聞いてなかったぁ」
「ペア作って自己紹介だってさ」
「ふぇ、じゃあ組も」
「え」
 一瞬たじろいでしまう。願ってもない申し出というか、元々そのつもりで近づいたのだが、こうも心根を見透かしたようなタイミングで言われると焦る。苦手とか考えてたのもバレてたらどうしよう。
「あたし友達いないの。アンタちゃんもでしょ?」
「そりゃ……そうだけど」
「決まりだねぇ」
 彼女はふにゃふにゃと笑って席を立った。ふわり、と嗅ぎなれないミステリアスな香りがたって一瞬クラリと眩暈がする。隣に並んでみれば意外と背は高くて、私が彼女を少し見上げる形となった。
「あたし、村上亜理栖。アンタちゃんは?」
「さ、佐藤琴子」
「ことこ、琴子、こっこ……うぅん、言いにくいなぁ……」
 しばらく考えたあと、彼女はパッと顔を上げ、腰を折って私の目を覗き込んだ。
「それじゃあ残り物同士、なかよくしよぉね。サトちゃん!」


 ――私たちが本当に世界で二人きりの残り物になるまで、あと112日と6時間。

 

 

 

三題噺『タオル』『退職』『旅館』

友人間で行った三題噺です。
ブログが寂しいので記録代わりに載せます。

制限時間:2時間
お題:タオル、退職、旅館




 五時間ほど夜行バスに揺られたあと、そこからしばらく山道を歩いた先に、その旅館はあった。シンプルな漆喰壁はところどころ黒く変色しており、相当な年月の経過を感じさせる。額の汗を掌で拭いながら辺りを見回す。人影は見当たらない。従業員はおろか、客らしき人間が居る様子もなく、丁寧に剪定された庭木が虚しく揺れていた。予約の電話を入れた際に従業員がこぼした「こんな辺鄙な所にわざわざ」という一言が頭をよぎる。辺鄙な所にわざわざ行きたがる変人は、私が思うよりずっと少ないらしい。
 キャリーバックを引く音を聞きつけてか、旅館の主人が慌てて飛び出してきた。腰を低く出迎えられ、非常に申し訳ない気持ちになる。まだ予約した時間には一時間ほど早い。どちらかと言えば落ち度は私の方にあるのだが、出迎えに出遅れた責任はこの主人が負わなければならないのだろう。その姿が会社での自分と重なって、私はいよいよ決意を深くした。
 やはり今夜だ。今夜死のう。

 出来損ないという人種は一定数存在するとは知っていたが、まさか自分がそうだとは思いもよらなかった。思い返せば、確かに自分は昔から容量が悪く、大学も浪人と留年を重ねて何とか卒業した口なのだが、社会に出ればもっと上手くやれるものと信じていた。だが現実はそうでも無い。競走に負け続けながらやっとの思いで手に入れた職も、たった半年で辞めてしまった。
 人間が最も深く絶望するのは、信じていたものに裏切られた時らしい。「自分にも出来ることがある」という希望に裏切られ、無意識に見下してきた人種こそが自分であったと知らされてなお楽観的でいられるほど、私は強くなかった。
 旅館の主人の背を眺めながら、これが最後か、とぼんやり考える。最後と思えばなかなか感慨深い――と感じられればよかったのだが、不思議なことに何の感傷も湧かない。むしろ、もう負けなくていい、という安堵が胸の底で燻って、自然と足取りが軽くなる程だった。
 部屋に着くと主人は丁寧にお辞儀をして下がっていった。期待はしていなかったが、なかなかいい旅館じゃないか。8畳ほどの和室はなかな落ち着いていて、ゆっくりとくつろぐには最適なように思えた。荷解きのあと障子を開けば、今晩飛び込むつもりの大きな滝が見える。じっと息を詰めて凝視していると、滝の落ちるごうごうという音が聞こえた気がした。
 今夜死のう。今晩飛び込もう。
 口の中で呟いていると、秘密の逢瀬を待ち望むお姫様のような心地がしてきて、なんだか身体がふわふわ軽くなった。

 夕食後、滝へ出掛ける用意をしていると、不意に部屋の扉がノックされた。
 慌てて開けば、主人がやはり平身低頭で突然の来訪を詫びた。私は企みがバレたのかと気が気ではない。自然とぶっきらぼうになる口で要件を尋ねると、何枚かのタオルを差し出されたので拍子抜けする。
 曰く、この旅館はもうすぐ閉鎖されるらしい。恐らく私が最後のお客になる。それもそうだろう。「こんな辺鄙な所にわざわざ」泊まりに来るお客なんて数が知れる。
 備品は全て売りに出す予定だが、ここから運び出す手数料を考えればどうせ大した儲けにもならない。従業員に配りもしているが、全て捌ききれるほどの人数も働いていない。旅の思い出だと思って、受け取ってくれませんか。今にも泣き出しそうに主人がタオルを差し出すので、困った。
 困ったというのは、最後なのはこの旅館だけではないからだ。むしろ私の最後の方が早くやって来る。なんたって今晩、私はあの滝に飛び込んで死ぬのだから。
 ああ、いえ、と口ごもっているうちに、主人は慌てて頭を下げた。そのまま踵を返して下がっていこうとするので、咄嗟に引き止める。
「ください」
 馬鹿みたいな四文字が情けなくて顔から火が出そうだ。人の気も知らずに、主人は涙を流して礼を述べた。
 出来損ないの私は死ぬことすらも出来ないらしい。腕に抱えたふかふかのまっさらなタオルが、なんだか憎らしくて仕方なくなった。

玄米絶頂ダイエット

お久しぶりです。
冷蔵庫が酒でいっぱいなので、食材は発泡スチロールに詰めて玄関先に置いています。ON蕎麦です。



などと冗談のように言いましたが、そんな限界酒民を拗らせているせいか否か、最近お腹まわりがヤバイです。

恐る恐る体重計のホコリを払い足をかけてみたところ、最終計測時からなんと3kg増。
今をときめく蕎麦としてはかなり由々しき事態です。

これまでダイエットとは無縁の生活を送っていた蕎麦も、一念発起、憧れのスリムボディを手に入れてやろうと腹を括りました。

今回はそんな私のダイエット興奮記を記そうと思います。
ぜひ皆さんもこれを参考にダイエットに励んでくださいね。





※注意
ここから先はかなり下品な下ネタが含まれます。
苦手な方は閲覧をお控えください。
要約すると「玄米はぷちぷち食感が楽しい」ということしか書いてありませんのでお気軽にブラウザバックをどうぞ。







さて、一口にダイエットと言えど方法は何万通りとあります。
そんななか私が選んだのは「玄米食ダイエット」

「玄米食ダイエット」とは読んで字のごとく、毎日の白米を玄米に置き換えるだけの超お手軽なダイエットです。



……とか言いつつ、この玄米とかいう食材、食うまでにまあ時間がかかること!!!!

玄米は白米に比べて食物繊維が多く、浸水に非常に時間がかかるそうです。

その必要時間、なんと6時間以上!





エッ6時間!?!?





デッド寿司が4回見れるが!?!?!?!?!?!?






https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00KALMHNC/ref=atv_dp_share_cu_r






錯乱しつつデッド寿司を4周して待つこと6時間。
しっかりと食欲の消え失せた私の手元には、水を吸ってひとまわり大きくなった玄米がありました。

デッド寿司を4回も見せられて心底疲れきっていた私の瞳からは涙が溢れ、濡れそぼった玄米のひと粒に吸い込まれていきます。




しかしまだ油断はできません。

ここまでの工程はいわゆる前戯。
ここからようやく“炊く”ことができ、それに加えて“蒸らす”というピロートークまで待ち構えています。
蒸らすって言葉なんかエロいですね。



艶やかな玄米を炊飯器に移し、「玄米モード」のボタンを押します。

小さな7セグメントディスプレイに映し出されるは「60分」の簡素な文字。
私はデッド寿司をもう一周する覚悟を決めました。




90分後。

心身ともに限界を迎え、這うように開閉ボタンに手を伸ばす私を、炊飯器は温かく迎えます。

焦らすように緩やかに開く蓋。

ぶわりと沸き立つ切ない湯気。

全裸の私の肌を焼く熱気。



──“玄米 (コスモ)”がそこに在った。









うおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおぉぉおおおお米ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!








デッド寿司で渇ききったと思っていた食欲が猛威を振るいます。
腹がグゥと鳴り、唾液がじゅわりと湧き出してきました。

尽きることのない人の欲の愚かさを振り切るように、ホカホカの玄米をかき混ぜます。
ありあわせの味噌汁と漬物をそっと添えればそれで充分です。


殺風景だった机上に鎮座する、ささやかで絢爛なアンサンブル。
玄米がヴァイオリンなら味噌汁はヴィオラでしょうか。
ベートーヴェン『弦楽三重奏のためのセレナーデ』がふと耳をよぎります。


いまだ湯気の冷めきらない山の頂点をそっと摘み、口へと運ぶ。
そのひと粒が舌に触れ、口蓋をくすぐり、そして歯に挟まれ──






ぷちり






刹那、感じたのは






————嗜虐。




7時間半もの苦楽を共にした玄米。
それはもう“戦友”とも“仲間”とも、あるいは“子供”とも呼ぶに相応しい存在。

7時間半手塩にかけて育てた可愛い玄米の最後の絶叫が口内を蹂躙する。

心做しか、茶碗に残された玄米たちも絶望の相を浮かべているように見えた。



圧倒的な愉悦と快楽。




ぷちり、ぷちりと噛み潰す度、弦楽セレナーデは玄米の嬌声へと変容する。


ぷちり あンッ

ぷちり だめっそこ♡

ぷちりぷちり あっ♡ あ゙〜〜〜♡♡♡

ぷちりぷちりぷちりぷちりぷちりぷちりぷちりぷちり
ひっ♡♡♡ イッ♡♡♡♡♡ らめっ♡♡♡♡おく(ば)ごりごりっ♡♡♡♡ ごりごりすき♡♡♡♡♡♡ いくっ♡♡

ぷちぷちぷちぷちぷちぷち♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
ぷちっ♡ ぷちぷちぷちっ♡♡♡ぷちっ♡♡♡
あ゙あ゙〜〜〜♡♡ ぎも゙ぢぃ゙ぃ゙♡♡♡♡♡ お゙っ゙♡♡♡♡ ぐりゅぐりゅ♡♡♡♡♡ らめッ♡♡ ぐりゅぐりゅするのらめ♡♡♡♡♡ おぐッ゙♡♡♡♡♡♡♡オ゙ッ゙またイ゙ッ゙♡♡♡グゥ゙♡♡♡♡♡
ぷちぷちぷちっ♡♡♡ ひぎぃ゙ッ゙♡♡♡ やらッ♡♡ ぷちっ♡♡♡♡ もうむぃ゙ッ゙♡♡♡ おかしくなるッ♡♡♡ ぷちっ♡♡♡ オ゙ッ゙♡♡♡じぬ゙ぅ゙〜〜♡♡♡♡♡♡♡

ぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷち♡♡♡♡♡♡♡
や゙っ゙!?♡♡♡ あ゙ーーーーーーッ゙!?!?♡♡♡♡
イグッ゙♡♡♡いくいくイグゥ゙♡♡♡♡♡♡♡♡ いくっ♡♡♡ どま゙っ゙で♡♡♡ イ゙ッ゙♡♡♡♡♡ イ゙っ゙てるから゙ぁ゙♡♡♡♡♡♡♡♡♡ ア゙あーーーーーーッ゙ッ゙ッ゙♡♡♡♡♡ 胚乳でりゅぅ♡♡♡♡♡ しろいのとろとろでちゃのぉぉぉ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡



ぶちゅん!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡





ひぎぃッ゙!?!?♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡







……。


























米食ダイエットやめました。

三題噺『梅干し』『線』『バス』

友人間で行った三題噺です。
ブログが寂しいので記録代わりに載せます。

制限時間:2時間
お題:梅干し、線、バス



 白線を踏む。車道と歩道を隔てるこの白線は、23センチのローファーを乗せるにはあまりに頼りなく、自然に一歩一歩が慎重になった。靴の裏に白線が順々と吸い込まれていく。高校に入学してすぐの頃はゲームみたいで楽しかったが、一年経った今では、これもただの習慣と化していた。楽しくもないなら普通に歩けばいいのだが、ずっと続けてきたのだしと思うとどうも辞めづらい。特に意味や意義があるわけではない、おまじないかジンクスみたいなものだ。
 スマホを取り出す。7時23分。今日もバスには乗れそうだ。バスが来る5分前にはバス停に着くだろう。そしたらいつものバスが来て、いつもの面子と顔を合わせて、いつも通り学校に行く。生徒の誰より疲れきった顔をした教師が出てきて、ダラダラと話を垂れ流し、聞いたような聞かなかったような気になりながらノルマを終えたらまたバスに乗る。多少窮屈でも我慢しなきゃいけない。道を踏み外さないよう慎重に歩くのが、幸せな人生を手に入れる唯一の方法なのだから。
 角のコンビニを曲がる。相変わらず白線は靴の裏にひっついてくれていた。あと数百メートルも歩けばバス停だ。私はホッと息をつく。今日も道を外れなかった。安心してまた一歩踏み出そうとした瞬間――
「すいません! すいません! つい出来心で!」
 目の前に人が転がり出てきた。驚いて後ずさった拍子に足が白線を外れる。
「すいませんで済んだら警察いらねんだよ! こっち来い!」
「すいません、許して、許してください」
 コンビニ店員らしい男が女の人を引っ立てている。女の人は地面にうずくまって、すいません、すいませんと必死に抵抗していた。
 「万引き」という言葉が頭に浮かんだ。咄嗟に周囲を見回す。止めようとする者は誰もいない。みんなザワザワと眺めるだけだ。そうする間に、店員は女の人の髪を掴み、店内に引きずり戻しかけている。
「――払います!」
 気づいた時には叫んでいた。店員も女の人も通行人も、一様にギョッとして顔を上げる。勇ましく声を上げたはいいものの、こんな風に視線を集めることに慣れていない私はたじろいだ。
「あ、あの……お金、私が払うので、許してあげてください。反省してるみたいですし、暴力は良くないって言いますし……」
 尻窄みな言葉にも効力はあったようで、もしくは冷静になって自分の言動を恥じたのか、店員は渋々と手を離した。話を聞いたところやはり万引きらしい。何を盗ったのかと思えば、パックの梅干し。お菓子やお弁当を想像していた私は拍子抜けした。
 1000円札を財布から出す。お釣りは要らないと伝えると、店員はあからさまに機嫌を良くした。やり取りの間、女の人は地べたに座り込んだまま、ぼうっと私の手元を眺めていた。自分よりふた周りほども年上のおばさんのためにお金を払うのは、当たり前だが初めてで、自分が素晴らしく勇気のある人間であるように感じてドキドキした。
 店員が店に戻ると、眺めていた通行人は途端に興味を失ったようで散り散りになった。あとでSNSに書かれたら嫌だな。一瞬後悔しかけたが、振り返ると女の人がポロポロと涙を流していたので、そんな心配も吹き飛んでしまった。
「あの、大丈夫ですか」
「……むすめが、娘が、お粥に梅干しが欲しいって」
「えっ」
「小学生なんです。風邪をひいてしまって。梅干しののったお粥がいいって言うので、お母さんが買ってきてあげるねって。お金が無くて、これくらい良いでしょうと思って」
 サラリーマンが彼女をチラリと見て、慌てて立ち去っていった。私だってそうしたい。こんな人の話なんて無視して、走ってバス停まで行って、いつも通り学校に行くのが正しいと分かっている。それなのに、白線の先に彼女が座り込んでいるせいで、私は前に進むことができない。
「私はどこで間違えましたか? 真面目にやってきたのに、結婚して子供を産んで旦那と協力して育てることが幸せだと聞いていたのに、どこで、道を……」
 そのあとは啜り泣くばかりで、言葉は続かなかった。乗るはずだったバスが横を通り過ぎる。陽の光を浴びて輝いていた白線に、私の形の影が落ちて、どこを歩けばいいのか私にはもう分からなかった。

【小説】人により程度は異なりますが依存が生じます

 フィルター越しの酸素だけを吸って生きている。
 舌の上で転がすようにねっちり息を吸い込めば、不味い煙が容赦なく口内を蹂躙する。不味いと言ったがこれが本当に不味い。変に甘ったるくてタバコらしい味が全く無い。その辺の適当な空気で薄めて無理やり肺に落とし込む。内側がジリジリ焼ける感覚。煙が脳まで回ったところで、夜の澄んだ世界へ乱暴に吐き出した。煙。風。散る。何度も見た光景。今更どうとも思わない。吐いた煙はいつだって消えていくし、俺はそれを分かって吐き出すだけだ。
 アンニュイな気分に浸る間もなく、冷たい空気が舌を刺した。慌てて不味いタバコに吸いつく。キスを強請る娼婦か、もしくは水から上げられた魚みたいだ。自分でも笑える。面白くも無いのに。どうやら虚しさと快楽は表裏一体らしい。
 これで何度目だろうと柄にもなく考えた。恋人ができたのは四回目。今の彼女とのデートは十回目。デートの最後にホテルに入ったのが六回目。セックスのあとベランダに追いやられながらタバコを吸うのは——これは分からない。セックスの回数とニアリーイコールくらいじゃないか。つまりは数えきれないという意味で。
 このタバコを吸うのは一度目だ。ウィンストンのホワイトキャスター3ミリ。普段セブンスターを吸っている俺としては、こんなタバコ吸えたものではない。彼女が突然渡してきたから吸っているだけだ。私の前では吸わないでくれるよね有り難うとか言われても、お前のためにそうしたわけじゃない。あの手の女はすぐに文句をいうから、それが面倒で避けているだけだ。
 こうやって面倒ごとから逃げてばかりだから、半年付き合ってタバコの趣味すら伝えられない。理解されたいとは思わなくもないけど、自分を見せるのは怖い。期待と真逆の反応が返ってきたら傷つくし、それで終わってしまう脆弱な関係性が露呈するのはもっと怖い。それくらいなら最初から理解させない方がいい。理解されないんじゃなくて、させなかったんだと言い訳ができるから。
 まだ半分ほど残っているタバコを灰皿に押し付ける。煙が一筋立ち上ってそのまま死んだ。墓の前に供えられた線香が脳裏に浮かんで、やっぱりすぐに消えた。どうせ俺の墓だ。
 服をはたいて部屋に戻る。人影が無かった。サイドテーブルに「さようなら」という書置きだけが残っていて、他に彼女の存在を証明するものは笑えるほど何も無い。書置きをつまんでベランダに出る。火をつけて灰皿に乗せてやれば、少し丸みを帯びた「さ」の文字から順に灰になった。ついでに自前のセブンスターにも火をつける。
 二十時二十四分。緩やかな自殺のために息をする。
 どうも俺は長く続かない。分かっていて、何度も求めるだけだ。

 

【自創作の小説】枯淡虚静としていて

 見えない綿がギッチリと詰まっているかのように空気が淀む。机に伏せたままピクリとも動かない頭が、ざっと見ただけでも半数。残った半数はゆらゆらと上体を揺らしながらなんとか耐えており、その健気な姿は、寂れた喫茶店の隅で埃をかぶったフラワーロックを想起させた。水曜、五限、麗らかな春の陽気。寝ても寝ても寝足りない年頃の我ら中学生にとって、この教室は、夢の国に旅立つための条件が揃いすぎていた。
 かく言う俺だって今しがた夢の国から帰還したばかりなのだが。ガクッときて慌てて顔を上げたところ、目の前に広がっていたのがこの惨状だった。バクバク波打つ心臓と、投げやりに授業を押し進める英語教師の不憫さが邪魔をして、おいそれと二度寝も出来ない歯がゆさに頭を掻く。
 ノートに目を落とすと、滅茶苦茶な線で構成された現代アートが出来上がっていた。まずい。あいにく今日は消しゴムを忘れてしまったのだ。シャーペンに付属した微力な消しゴムでは、この燃えるアート魂はとても消火出来なさそうである。
 (……素直に借りるか)
 顔を伏せたまま隣の様子を伺う。机上に投げ出された二本の腕が見えた。左手のシャーペンは今は静止しており、ノートの半分ほど英単語が綴られている。「さあ寝てください」と言わんばかりのこんな状況で、この男は律儀に起きていたらしい。
 コイツ、こういうとこで変に真面目だよな。
 この山椎という男子生徒は、昨年の秋ごろウチのクラスへやってきた転校生だ。都会から来たと聞かされクラス中が浮き足立ったのも数日、話してみればなんてことはない、俺たちと同じただの思春期の中学生男子だった。釘バットを携えた金髪のヤンキーを想像していた俺は、栗色の髪のひょろ長い男子生徒が入ってきたのを見てすっかり拍子抜けして、一番に話しかけたのを覚えている。
 そんなわけで、コイツとは消しゴムの貸し借りくらいは出来る仲だと言うわけだ……と信じたい。
「山椎、消しゴム貸し──」
 教壇まで声が届かないよう注意深く囁く。が、続きは言えなかった。
 そこには、窓の外をぼうっと眺める物憂げな横顔があった。
 髪と同じく茶色がかったその虹彩は、窓から押し入った空の青を取り込んで、寂しげな枯葉色を称えていた。ふ、と薄く息を垂らした唇は、糸切り鋏の先端のように繊細で、細い吐息をちょきんと切ってしまいそうな鋭利さがある。首元の影が生白い頬と変なコントラストを成して、作り物とも生物とも言えない表情を浮き彫りにしていた。
 俺の乏しい人生経験では、その表情をピタリと言い表す言葉なんて想像もつかなかった。悲しみと言うには諦め過ぎているし、虚しいと言うには求め過ぎている。何より、目が、空の青に侵されて色を変えてしまったその目が、何も見ていない。
 喉元まで声が出かかる。なあ、今何考えてるんだよ。なんでそんな顔するわけ。無性に知りたくなって目線を追っても、そこには何も無い。ゆらゆら揺れる女子生徒のポニーテールも、上から下にゆっくりと沈む塵埃も、黒板にばかり話しかけている英語教師も、俺のノートの現代アートも、消しゴムも、俺も、お前も、春も五限も世界も、何も、何もかもがそこには無い。そこというのはお前の中だ。網膜に映った虚像なんかじゃない、お前の頭をぱっかり割った時に出てくるそれが知りたいのに、教えてくれるものは、ここには無かった。
 お前、いま、何見て――
「なに見てるの」
 突然、世界に声が響いて俺は現実に引き戻された。自分の色を取り戻した山椎の目が俺を見ている。口元には、いつものヘラヘラとした軽薄そうな笑みが浮かんでいる。
「えっち」
「……は?」
「そんなに見つめられたら集中できない」
 ガサガサと筆箱を漁ったあと、山椎が何かを投げ渡してくる。慌てて受け取れば、少し小さくなった消しゴムだった。
「今日一日使っていいよ──って言っても、もう終わるけど」
 その言葉を合図にチャイムが鳴り響いた。時間が動き出す。生徒たちが一斉に起き上がり、教室内が息を吹き返したように明るくなった。英語教師は早足に出ていった。アーだとかウーだとか、意味の無い呻き声と、パキパキ骨の鳴る音が満ちた。友人が何人か集まってきて、俺のノートを馬鹿にした。
「……いいんだよ、これは現代アートなんだから」
 苦し紛れに言うと騒がしい笑いが起こった。山椎の様子を伺うと、やっぱりみんなと同じように、でもどこか違う笑顔で笑っていた。
 俺は、この意味の無い線の集合体だけが、何かを証明してくれる気がして、消してしまえばお前の見ていた大事な何かまで消えてしまう気がして、ずっとそうしてお前の笑顔をぼんやり眺めていた。

『そうしてあなたは何かを救った』 資料集

クトゥルフ神話TRPGシナリオ『そうしてあなたは何かを救った』の資料置き場となっております。

以下の資料は、CoC合同シナリオ集『鍵穴を覗け』の紙面上にも掲載されていますが、

セッションの際にコピー&ペーストができないのは不便だと思い、資料類に関してのみ、このような形で公開しております。

 

ストーリーや描写に関しては、紙面上でのみの掲載となります。

ご了承ください。

 

 

ご意見、感想、こんな茶番が生まれました! というご報告はTwitterまで。

→万物のしくみ(https://twitter.com/oshiri_k2)

 

 

 

 

 

 

ハンドアウト

(KPの趣味、持っていきたい方向性に合わせて、いじって使用してください)

 

概要:

——何かを救うというのは、別の何かを救わないということだろう。

 

時は1988年、バブル真っただ中。探索者たちは、とある廃遊園地に迷い込んでしまう。ひとりでに動き始めるメリーゴーランド、這い依る黒い影、襲い来る謎のピエロ——まさに怪異、怪異、怪異の連続! そして探索者たちは、驚きの真実にたどり着く。

 

奨励技能:目星、聞き耳、リアル説得技能

所要時間:ボイセで2~3時間

 

※ロスト率が高いシナリオなので、必ずサブPCを一体用意してください。

※確認事項がありますので、事前に両方のキャラシの提出をお願いします。

 

 

 

 

探索者かんたん入れ替えシート PDF版

drive.google.com

 

対応箇所:全体概要 ハウスルール「精神交換」

 

 

 

 

旧き印(画像)

無断転載はご遠慮ください。

セッション中に身内で使う程度でしたら問題ありません。

f:id:oshiri_k2:20191003161519p:plain

対応箇所:シナリオ(表) 1 導入

     シナリオ(裏) 4 シュブ=ニグラスの召喚

 

 

 

 

新聞紙

第三次世界大戦終結し二年が経ったが、異常気象から引き起こされる食糧難は年々厳しいものとなっている。世界人口は、ついにピーク時から三分の一を切った。

人口の激減に伴い、経済の変動が激しく、第四次世界大戦の開戦まで秒読みではないかと囁かれるほど、世界情勢は混乱を極めている。

(日付:2019年4月)

 

腕に少女を抱えて走る女性の写真が載っている。少女は頭が半分吹き飛んでおり、明らかに死亡している。

 

対応箇所:シナリオ(表) 3-1 廃遊園地の探索

 

 

 

 

計画書

×××は豊穣を司る女神である。その召喚は、五月の収穫祭の直前の時期が最も適している。

世界に破滅が近づき始めたのが、約30年前。そこで、30年前の四月末にタイムトラベルを行い、×××の召喚、生贄の儀を執り行う。

これで××は救われる。

彼らに計画の全貌を話すのは、召喚の直前にしよう。……そこまで巻き込んでしまってからではないと、裏切られるのではないかと不安なのだ。

私でさえ、これほど迷っているというのだから。

……それ×も私は、誰かに止めてほしいと思っているのだろうか?……ああ、私は何を×えば……

 

対応箇所:シナリオ(表) 3-4 ジェットコースター

 

 

 

 

召喚手順

① 10歳以下のこどもの新鮮な血液を10リットル以上集める。

② ①を用いて、遊園地の外を囲むように召喚陣兼、生贄の祭壇を描く。

③ 召喚の呪文を唱える。

 

対応箇所:シナリオ(裏) 1裏野真琴との接触

 

 

 

 

ご要望・ご意見等は上記Twitterまでよろしくお願いいたします。